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平均4.3万円の養育費「7割以上の親が払わない」。保証サービスは根付くのか

 日本では毎年およそ22万組の夫婦が離婚しているが、その6〜7割にあたる約13万組の夫婦が未成年の子供を持ち、75%のひとり親が養育費を受け取れていない現状がある。昨年6月には前澤友作氏が立ち上げた新会社「小さな一歩」の養育費あんしん受取りサービスも話題になったが、養育費の未払いはこの国で大きな社会問題となっている。
桑原豊

イントラストの桑原豊社長

 今回は、日本初の養育費保証サービスを展開してきたという総合保証サービス会社「イントラスト」を取材。同社の桑原豊社長と勝山公裕部長に、養育費を取り巻く実態をうかがった。

養育費保証の仕組みとは?

「養育費を受け取る側は8割以上がひとり親の女性で、シングルマザーの平均所得は300万円前後。平均1〜2人のお子さんを持ち、養育費の平均は4.3万円ほどですが、その養育費すら受け取れていません。女性の社会進出は元より、子供の将来のためにも受け取るべきものはしっかり受け取る。養育費保証がその一助になれば、という思いで始めました」という桑原氏。  今年3月に創業15年を迎えた「イントラスト」は、家賃債務保証で事業をスタートさせ、現在では医療費用、介護費用などの保証商品も取り扱っている。養育費保証は養育費の支払いに延滞などが発生した場合に立て替え、自社の債権として支払い人から回収する仕組みだ。  養育費保証の利用者は前年比で約4倍の勢いで伸長。ひとり親向けに情報提供するオウンドメディアは養育費関連サイトでは日本最大規模を誇る。月間アクティブユーザー数は10万人以上とのことで、それだけ分厚い潜在層が存在しているようだ。 「売上のボリューム的には家賃債務保証が圧倒的に多く、養育費保証はまだまだ企業の売上げや利益に貢献するところまでは至っていません。しかし、総合保証サービス会社を謳う当社としては、ある程度、収益を無視してでもやる価値のある商材という信念を持っています。家賃保証から始まり、我々の持つノウハウを横展開していく中で、養育費保証は当社がやるべき商材という理解ですね」(桑原氏)  養育費保証を開始した当初は、明石市や大阪府など多くの地方自治体から、養育費の問題を抱える住人を補助・支援する制度として大きな関心も寄せられた。  だが、それまで世の中になかった新商品ということもあり、まだまだ養育費保証の認知度は高くない。同社ではオウンドメディアのほか、再婚支援団体のフォーラムなどにも積極的に参加してきたという。 「上場企業として適正利益を確保するため、ある程度短い時間軸で母数を獲得して、自分たちでマーケットをつくっていく必要があるんです。本格的に養育費保証のBtoC展開を始めたのは2019年頃からですが、シングルマザーやシングルファザーの集まりにも足を運び、養育費保証を知っていただく地道な活動を続けてきました」(桑原氏)  

シングルファザーの現状

「養育費は公正証書による約束事で、離婚時から子供の成人まで養育費を支払うことになります。これは債務なので法的な処置で訴えれば、相手は払わざるを得ません。しかし、受け取る側に裁判費用や弁護士費用などの先立つお金がなければ、訴えにかけられない。多くの養育者が泣き寝入りしているのが現状です」(桑原氏)  養育費を受け取れていないのは父子家庭も同様で、離婚した夫婦のうち約2割は男性が親権を持つが、シングルファザーの97%が養育費を受け取っていないという。そもそも母親が親権を持ちやすい理由も含め、なぜこのような数字になるのだろうか? 勝山氏は次のように解説した。 「裁判所はどちらが育てるほうが子供の幸せにつながるかを考慮して判断します。世話周りの実績などが重視され、母親のほうが子供と接してきた時間が長い傾向などがあり、親権を持ちやすいんです。全く収入がなければ親権を持ちにくいとされるものの、実際はパートやアルバイトでもほとんどの母親が親権を持つため、収入の多寡はあまり考慮されません。また、男性のひとり親はシングルマザーと比べれば年収は高いものの、全体の平均からすると余裕があるわけではなく、元妻の収入が自分の収入よりさらに少ないことも多い。養育費を受け取りたくても声を上げにくい状況が多く見られます」  同社の保証商品では、養育費の支払う側との契約が必要なプランと、支払う側の契約なしで養育費の受け取る側が単独で契約できるプランの2つを用意している。 「当然、相手との交渉が難しいケースも少なくないので、受取人様側とだけ契約すれば済むプランも用意しています。ただ、支払い人様との契約がある方が更新料や保証料でメリットがあり、実際の割合的には支払い人様の保証委託契約有りで検討される方が多いです」(勝山氏)  少し意外だが、養育費保証は必ずしも女性や養育費を受け取る側だけでなく、養育費を支払う親権を持たない側のニーズもあるという。 「経済的に心配で奥さんが離婚に応じてくれないご夫婦は、こうした保証商品が離婚の説得材料になり、離婚に向けた話し合いがスムーズに進められることがあります。また、娘さんや息子さん夫婦から離婚の話を聞いた親御さんが心配され、お問合せやご相談をいただくこともありますね」(桑原氏)
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養育費の未払いが多い理由
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